
圧倒的な刺激に満ちた映画『ANORA アノーラ』を観た瞬間から、私はその世界に引きずり込まれ、一時も目が離せなくなりました。公開直後から世界中で話題騒然──「もしかして今年一番の衝撃作か?」という期待を抱きつつ劇場に足を運んだのですが、期待ははるかに上回り、いまだに興奮と感動の余韻が冷めません。
最初の数分、主人公アノーラはただのストリッパーであり、客を奥の部屋に連れ込んでは性的サービスを提供する、いわば“娼婦”と大差ない存在のように見えます。お金が生み出す淡白な取引関係が、そこには確かにありました。しかし物語が進むにつれ、彼女の内面はまるで白い睡蓮がゆっくりと開花するかのように、気高さと美しさを帯び始めるのです。
そんなアノーラの人生を一変させるのが、大富豪一族の息子・イヴァンとの出会い。彼は自分とは真逆ともいえる境遇にいる彼女に興味を持ち、最初は“契約”のような打算的関係でしかありませんでした。ところが、ふたりはいつしか本気で愛し合うようになり、まさかの結婚へと突き進みます。まるでメルヘンのような展開ですが、同時にその裏側には“欲望”という生々しさが常に付きまとい、観客の感情を強烈に揺さぶってきます。
実は私自身、プライベートでソープランドを利用していることもあって、この映画の前半は嘘のようにリアルでした。愛なんて生まれないと思っていた関係が、気づかぬうちに本当の愛に変わってしまう──そんな奇跡のような瞬間が、現実にも起こりうると知っているからこそ、この作品には痛いほど共感してしまうのです。
ストーリーが中盤から後半へと移るにつれ、イヴァンの両親という強大な“壁”がアノーラと彼を引き離そうと暗躍します。そこで必死に愛を訴えるアノーラの姿は一見、幼稚で笑ってしまうほど滑稽かもしれません。ですがその必死さこそ、まるで血の通った“真心”そのもの。過去の彼女を思うと、「こんなに純粋に愛を叫ぶ女性に、誰が成長させたのか?」と、胸を締めつけられるような感動を覚えずにはいられません。
そして、後半のカメラワークが実に秀逸。特に彼女がイゴールから指輪を受け取るシーンは、スクリーンに刻まれる“愛の象徴”そのもので、私たち観客はアノーラが初めて本当の優しさを知り、心を震わせる瞬間を目撃するのです。まるでひとつの奇跡を見届けているかのようでした。
アメリカ映画界の底知れないイノベーション精神をあらためて感じるのも、この作品の大きな魅力。日本では絶対に実現できない大胆さや自由な表現が散りばめられ、観る者の価値観をひっくり返してしまうパワーがあります。アカデミー作品賞を受賞したこともうなずける、まさにフロンティアスピリットが詰まった一作です。
エンドロールが流れるころには、もはやアノーラの姿は初めの“娼婦”というイメージから完全に遠ざかり、心の底から美しく神々しい存在へと変貌しています。その姿は、一輪の睡蓮が汚れなき白い花を咲かせるような神秘と清らかさ。彼女の魂が放つ光は、劇場を出てもなお、あなたの心を離れないでしょう。
欲望、金銭、そして本当の愛というテーマを濃密に描き切った『ANORA アノーラ』は、単なる映画の枠を超えた“体験”として、一生モノの衝撃を味わわせてくれます。あなたの常識を覆すほどの純粋な感動を、どうか劇場でその目に焼き付けてください。観終わった頃には、アノーラがあなたの心に永遠に咲き続ける、一輪の清らかな睡蓮となっているはずです。
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