三島由紀夫『世界の静かな中心であれ』

昭和34年1月1日の読売新聞に掲載されたエッセイは、14年続いた平和な世の中における感想を富士山を例に書いている。

「富士山も、空から火口を直下に眺めれば、そんなに秀麗と云うわけには行かない。しかし現実というものは、いろんな面を持っている。火口を眺め下ろした富士の像は、現実暴露かもしれないが、麓から仰いだ秀麗な富士の姿も、あくまで現実の一面であり一部である。夢や理想や美や楽天主義も、やはり現実の一面であり一部であるのだ。」

そして、今年こそは、政治も経済も、文化も、本当のバランス、スレッカラシの大人のバランスに達してほしいと思うと述べる。楽天主義悲観主義、理想と実行、夢と一歩一歩の努力、こういう対蹠的なものを、両足にどっしりと踏まえたバランス、それかこそが、現実的な文化である。

日本もついに野球選手と映画スターと流行歌手の国になってしまったか、などというのもヒステリックな詠嘆に過ぎず、こういう不必要なものが生活の関心の大部分を占めるだけ、余裕のできたことを喜ぶべきだ。ただ不必要なものに大騒ぎをして、もっと必要なもの、安定した職や住宅や良い道路などのために大騒ぎをしないのが、いかにもアンバランスで、今年こそは必要と不必要の双方を踏まえたバランスが欲しい。

古代ギリシャ人は、小さな国に住み、バランスある思考を持ち、真の現実主義をわがものにしていた。われわれは厖大な大国よりも、発狂しやすくない素質を持っていることを、感謝しなければならない。世界の静かな中心であれ。

日本の象徴である富士山に問いかけるような美しさが、このエッセイにある。三島由紀夫は、国について語る時に、爽やかな美をともなう。

私一個のうちにだけでも最大の美しい秩序を築きたいと氏の生真面目さが良く表れている。

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