三島由紀夫の『親切な機械』と苔寺(西芳寺)の旅

金閣寺』の舞台を巡る旅に出たものの、途中で寄り道をして、三島由紀夫が25歳頃に訪れたことのある京都の苔寺西芳寺)に行ってきました。この寺は、三島由紀夫の作品『親切な機械』の重要な舞台の一つです。主人公の猪口が、苔寺鉄子に結婚を申し込み、断られた末に彼女を殺害するという衝撃的な場面が描かれています。

作中の描写

「嵐山には例によって漫然と人間がいるだけのことである。名所というものはどこでもそうであるが、ここは別して今日だけ茶店が休みの日の劇場のような様子をしている。…鉄子さん、一寸」

三島由紀夫が描く苔寺の情景は、まるで現実から切り取られたかのような美しさと静寂さに満ちています。庭園の苔は初夏には青々とした馬の背のように見え、その細やかな美しさはサラブレッドの毛並みを思わせます。訪れる人々は、まるで妖精のための芝生のようなデリケートな美しさを見出すことでしょう。

「初夏になると苔寺の庭は、その凸凹が青い馬の背を連ねたようにみえ、苔の感触といい、光沢といいサラブレッドの名馬の毛並みを思わせる。…彼らは波斯密画の繊巧をきわめた庭草の描法を見るであろう。」

私の訪問記

私が訪れたのは9月下旬。予約した往復ハガキに記された日時に合わせて訪れると、和尚さんのお話とお経を聞いてから庭を見ることができました。隣に座っていた西洋人のカップルは、お経の後で喜びに満ちた様子で話していました。異国の文化に触れ、そのリズムに誘われるように無我の境地に至る体験は、まさに三島由紀夫の描写そのものです。

三島の描く情景を思い浮かべながら、苔庭を歩いていると、その繊細な美しさに心を奪われました。庭園は意外と小さく、10分もしないで一巡りできるほどです。かがみこんで苔を写している女性に「研究でもされていますか?」と尋ねると、ただ首を振るだけでした。この静謐な空気が、人々を無言にさせるのでしょう。

「廻遊式の庭園は、荒涼とした径の上に2人を導いた。鉄子が礫(こいし)を戯れに池へ投げ入れる。すると鯉がものうい動きで黒ずんだ鰭をはためかして消えた。」

三島由紀夫が描くように、庭園の中での静かなひとときは、まるで時間が止まったかのような感覚を与えます。この庭園で感じる静寂と美しさは、現実の喧騒から離れ、心を浄化するような体験です。

結び

三島由紀夫の『親切な機械』に登場する苔寺西芳寺)は、その美しさと静けさで訪れる者を魅了します。作中で「この庭園で鬼ごっこをしたのは、僕らが初めてでしょうな」と語る猪口の言葉通り、この庭園の独特な雰囲気は一度訪れる価値があります。

訪れた際の静謐な空気と庭園の美しさは、三島由紀夫が感じ取ったものと同じかもしれません。苔寺西芳寺)を訪れることで、彼の作品世界にさらに深く浸ることができるでしょう。

三島由紀夫の文学作品は、しばしば日本の美と人間の内面を深く掘り下げています。『親切な機械』に描かれた苔寺の美しさは、彼の作品全体に流れる繊細な美意識を象徴していると言えるでしょう。この苔寺を訪れることで、三島の視点を体感し、その作品への理解を深める貴重な体験ができました。

【リンク】

苔寺西芳寺)公式サイト

三島由紀夫の『親切な機械』について

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